陸山会事件、小沢一郎、石川知裕の裁判についてざっくり解説

記載ミスや勘違いは訂正では済まないのか ─陸山会土地購入事件

国民の義務とされる「納税」。私たちは収入に応じた税金を支払うことが義務づけられています。普通のサラリーマンは、脱税しにくいシステムになっていますが、個人事業主や会社の経営者は、売り上げや経費をきちんと計算して税務申告しなければなりません。
本来支払うべき税金を免れる違法な行為のことを「脱税」とか「申告もれ」などと言いますが、一般に「脱税」とは、わざと税金をごまかすことで、「申告もれ」とはミスや勘違いのものを指します。脱税の典型的な手口は、例えば1億円の売り上げがあったのに、それが5千万円しかなかったかのように装う「売り上げ除外」や、1億円の売り上げがあったことは正しく申告するけれど、5千万円もの経費がかかったように見せるため、領収証を偽造する「必要経費の水増し」などがあります。
ところが、本来は経費として2千万円くらいしか認められないのに、経営者が勘違いしたり、法の解釈を間違ったりして、誤って5千万円の経費を計上してしまったらどうなるか。
巧妙で、明らかな違法な隠蔽工作があったなら「脱税」で告発しますが、軽微な場合や考え方次第では間違ってしまうこと、けっこう多いですよね。
著名人でよくあるのが、講演やテレビ出演原稿料が支払われる場合、最初から10%が源泉徴収とされていることから、「もう既に税金は払ったものだ」と勘違いするケース。ある年はものすごく講演料収入が多くて、計算してみたら、税率は20%となるのに、きちんと申告して差額を納税しないと税金を免れたということで摘発されます。
しかし、巧妙に隠蔽したかというと、そうでもありませんよね。ズボラな態度は批判されるけれど、この程度であれば修正申告で許してくれる可能性が十分にあります。

土地の代金支払い時期・登記のタイミングを間違えて記入
判決文を読むと、当時秘書だった石川知裕氏は、「小沢一郎氏の資産や政治資金の流れが公開された時、あまりにも巨額な金が動いていると、それだけでマスコミの批判となってしまう」と考えて、「4億円の土地購入が目立たないように偽装工作した」とあります。
その偽装工作の方法として、りそな銀行から借り入れて、金を出したり入れたりしたとか、小沢一郎個人が4億円を渡したことがきちんと報告書に記載されていなかったことなどが挙げられています。
これを簡単に言うと、「帳簿にきちんと書かなきゃいけないことを、きちんと書かなかったことが問題だ」ということです。
陸山会という政治団体が4億円の土地を買おうとした。小沢一郎氏が持っている資金管理団体のお金をかき集めれば、4億円の現金は用意できるが、早く支払おうとしたために小沢一郎個人が自宅に持っていた4億円で支払った。その金は、後に「りそな銀行」から借り入れて小沢個人に返済されるという変遷に至る。
このややこしい資金の流れは、色眼鏡を通して見ると怪しく見えます。資金管理団体がお金を持っているのに、それをかき集めずに小沢氏個人が用立てるというのも怪しく見える。だいたい個人が4億円を現金で持っていることが怪しい。そこに銀行から融資が介在することも怪しい。
しかし、我々一般人からすれば、怪しく見える一連の行動かもしれませんが、まずこれらは違法でもなんでもありません。中小企業の経営者であれば、この程度の金銭の融通はよくあることです。むしろ、これだけ大きな金が動いていながら、帳簿の金が消えたとか、使途不明金があったという指摘がありません。
つまり、秘書が逮捕されるほどの事件でありながら、金の出入りそのものはきちんと説明がつくものだったし、偽装工作と呼べるほどの大きな違法も無かったといえます。
我々だって普通にやるでしょう。
Aさんが上司に文具を1万円買ってこいと指示されて、手持ちの1万円で立て替えて、領収証を会社に渡したら、1万円返金されるという流れ。厳密に帳簿に書くとすれば、会社はAさんに対して1万円の借り入れをしたと書き、あとで返済したと書くことになりますが、たいていの会社はそこを省略して、会社が文具店に1万円を支払ったと帳簿に記入します。逮捕される危険を考えて、これを正確に書こうとするとややこしい。更にもしAさんがポイントやマイルを目当てにクレジットカードを使っていたらどうなるか。もっとややこしいですね。
すると会社の経理担当者は、いずれにしても1万円を拠出したのだから、文具店の1万円の領収証があればよいと判断するでしょう。

元秘書ら、特に4億円の土地購入にかかる中心的な人物である石川知裕氏は、帳簿の記入についての指摘を受けて、ミスを認めています。ただし、これは「どこまでも正しい帳簿を追及していったらとんでもなく膨大になるので簡略化した」ことについてであって、故意に過少申告したという、いわゆる脱税のレベルではありません。そもそも、収支は合っていて、使途不明金もないのだから、ただの書き間違い・勘違いと解するのが妥当ではないでしょうか。

ついでに述べるなら、当該政治資金報告書の根拠となる帳簿は複式簿記ではなく、単式簿記であることが指摘されています。単式簿記は複式簿記に比べて、不正やミスの起こりやすい帳簿です。絶対に不正をするな、ミスをするなというのであれば、不正やミスの起こりにくい簿記システムを導入しなければなりません。せめて複式簿記を採用すべきでしょう。
また、公認会計士や税理士でもない人物(元秘書ら)が、どの程度のスキルを担保にして報告書を作成しなければならないのかが明確ではありません。
「政治家の資金管理団体における会計責任者は公認会計士か税理士に限る」くらいの規定があって、石川知裕氏がその資格を持ってもなお間違えたというなら問題ですが、同氏はそのような資格を持っていません。
別に金を着服した訳でもなく、ただ記入をミスしただけで、会計責任者を逮捕・起訴、そして禁錮を科すというのは正義ですか。
刑法を勉強したことのある人なら、「可罰的違法性」なんて言葉を聞いたことがあると思いますが、刑務所に入らなきゃいけないほどの事件ですか。
税金でいえば、修正申告で済まされる程度の話ではないのですか。

 


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