陸山会事件、小沢一郎、石川知裕の裁判についてざっくり解説

目の前の人物をどこまで調べるべきなのか ─西松建設事件

みなさんが、酒類を販売するコンビニエンスストアの店員だったとします。
レジの前に、缶ビールを6本持ったお客さんが現れた場合、どうしますか。

その客は、見たところ高校生か大学生くらい、ひょっとしたら20歳に満たないかもしれないと感じた場合、どうすべきか。そう、その客の年齢確認をすればよいのです。とりあえず免許証や学生証で20歳以上であれば、未成年者に酒類を販売したことで咎められることはありません。実はその人は18歳で、偽造した身分証を提示していたとしても、一見して偽造とバレない身分証だったのなら仕方ありません。また、その人が20歳で、未成年者に飲ませる目的でビールを買ったとしても、レジに現れた人が20歳なら、ひとりでは飲みきれないであろう量のビールを10ケース買おうとしても、店員側は目の前の人物の年齢だけ確認すれば、責任は免れます。

西松建設という建設会社は、小沢一郎に対して献金したいと思いました。小沢氏の政治家としての魅力が気に入ったのかもしれないし、賄賂のような目的があったのかはわかりませんが、政治家に政治資金を託す行為は、別に違法でも何でもありません。「カンパ」や「募金」の金額が大きいものと考えるのがこの世界の普通のできごとです。

判決によれば、この事件は、小沢一郎に対して西松建設の名で多額の献金をすると目立ちすぎると思った会社が、当時の自治大臣に「新政治問題研究会(新政研)」、そして東京の選挙管理委員会に「未来産業研究会(未来研)」の設立をそれぞれ届け出ることで始まりました。実は、自治大臣(現在は総務大臣)や都道府県の選挙管理委員会に政治団体として設立届けが出されると、公式な団体として認められるのです。

当時、「陸山会」という小沢氏の資金管理団体の会計責任者は、一審で有罪となった大久保隆規氏です。当時、政治団体から資金管理団体への献金は合法だったので、会計責任者として大久保氏がすることは、新政研と未来研が公式の団体であることの確認と、献金の金額や時期をきちんと記録し、報告書に記載することです。この2つの団体は、2002〜6年の4年間に、約3,500万円を小沢氏の資金管理団体に献金しましたが、その3500万円のお金の出所が西松建設からのものだったのです。だから、本来は「西松建設から献金された」と記入すべきだったとされています。
しかし、大久保氏個人としては、3,500万円という大金であっても、それは4年間に渡るもので、しかも事務所のお金です。「新政研」や「未来研」の名義で振り込まれた献金を、大久保氏が「この金は西松建設のものかもしれない」と察知して、「西松建設」と書けというのは、かなり無理があります。
判決によれは、政治団体らしい実体がなく、政治資金規正法は他人名義での寄付や献金を禁止したのであるから、虚偽記載であると認定されています。


年間最大1500万円の献金が、「公共工事の受注の力添えを求めることは明らか」とあるが、それは献金する側の姿勢であって、明確に約束したものではない。仮にそれが立証できるのなら、政治資金規正法ではなく、収賄で起訴すべきではないのか。

この判決が正しいとするならば、今後、全ての政治家は全ての献金に対して、逮捕・起訴されないためには、どこまで調べれば免責されるのでしょうか。献金を申し出た人に対し、「あなたはどこの何者で、何を目的にして、どういう出所のお金を持ってきたのか」まで、徹底して調べろということでしょうか。逆に破滅させたい政治家がいたら、わざと偽名で献金して通報すればいいという、恐ろしい前例ができたことになると思います。

この西松建設事件は、まだまだおかしな事実認定がたくさんあって、超能力者でもなければなし得ない、会計責任者のやるべき業務が盛りだくさんです。
また別の機会にお話ししたいと思います。

 


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